つづき

  • 交響曲第6番ニ長調:ブラ2をよく知ってる人なら必聴です。木管楽器の使い方(特にオーボエとフルートの重用?)などにどことなく今までと違うものを感じます。要所要所でオーケストレイションが敢えて薄くなるのも特徴か。ちなみに楽器編成もピッコロ持ち替えを除いてブラ2と一致。
    • 第1楽章は非常にわかりやすい,「ブラ2にインスパイヤされた」楽章だが,それでいてうまくドヴォルジャーク流に展開することに成功していて素晴らしい。終盤はやはり感動的。
    • 第2楽章は,強いて言えばブラ1の緩徐楽章あたりの影響があるか?
    • 第3楽章,初めてフリアントが登場します。完成度が高い。しかしトリオで一変,木管アンサンブルになるのが非常に斬新。何を思ったのでしょう。民族的な主部の照れ隠しなのか,鄙びた田舎の雰囲気を出したかったのか。フルートによるレチタティーヴォといった雰囲気もあります。トリオの音型は第1楽章と関連性がありそう。
    • 第4楽章はふたたびブラ2の同楽章のパクりですが,こちらは若干無理してる感がつきまといます。それでも立派なものですが。後半はブラ2的大団円を作ろうと試行錯誤して健闘して,結局勢いでフィニッシュという印象。なお,ノイマンチェコフィルの解説には「他の交響曲に見られる他の楽章との主題的関連といったワグネリアン志向がまったく姿をみせていない」とありますが,第4楽章展開部に見られる4度の跳躍音型は第1楽章と関連していると言えないでしょうか?
  • 交響曲第7番ニ短調:こんどはブラ3の影響。調性も平行調
    • これまでの交響曲とは一線を画す,一言で言えば「指揮しにくそうな」拍子感。6拍子,ヘミオラ,とブラ3の影響でしょうね。クラリネット中心に提示される第2主題もブラ3っぽい。本当によく練られた感のある名作ですね。
    • 第2楽章冒頭もクラリネット中心に始めるところはブラ3と共通性が感じられます。
    • 第6番よりも含みのある舞曲調スケルツォ。トリオの導入はオーボエによるレチタティーヴォ風,に感じる。
    • また第3楽章でまとまってしまって苦し紛れのスタート。第1主題は《交響的変奏曲》の主題と少し似ています。この曲は主題の回帰的なものはないのでしょうか。対するブラ3は最後で第1楽章の主題が回帰しますが,案外ブラームスがドヴォ5に影響されてたりして。「やべえ,最後に冒頭の主題が回帰するのってかっこいいな。でもそのまんまじゃアレだから,静かに回帰させてやろう」
  • 交響曲第8番ト長調:中期三大交響曲ヴァーグナーの影響をドヴォルジャーク流に消化/昇華するプロセスだったのに対して,6・7・8の三大交響曲ブラームスの影響を消化/昇華する過程だったのでしょうか。ブラ4の平行調だが直接的な影響は前2作と比べれば少ない。久々に聴いたら感動しました。
    • 第1楽章は後期交響曲のなかでもとりわけドヴォルジャークの独創性が表れた楽章ではないでしょうか。しかし気になるのは,ブラームスを意識してか6・7と使用をやや抑え目にしてきたトランペットを,今作では大活躍させていること。前作と打って変わってパーッと景気のいい曲にしたかったのかな。
    • 第2楽章は,ドヴォルジャークで最も美しい楽章のひとつでしょう。
    • 第3楽章は,これまでのスケルツォと異なりワルツ風。K原先生が,冒頭のブラ3第3楽章との類似性を力説しておられましたね*1オブリガートを管楽器にしてしまうところがドヴォルジャークモルト・ヴィヴァーチェのコーダはブラ2第3楽章を連想させなくもない。
    • ブラ4のパッサカリアに倣い,変奏曲形式では負けない(cf.《交響的変奏曲》)ドヴォルジャーク氏の快作。冒頭も思い切ったラッパのファンファーレで,ふっきれた第4楽章を築くことに成功。余談だが最近は冒頭のラッパ聴くとプロコの2番を連想してしまう。
  • 交響曲第9番ホ短調新世界より》:アメリカ風を意識していることは否定できない。そういう点では最もクセのある交響曲。また,再びブラームス的性格を離れ,循環主題を全面に活用。その分,各楽章の構成としては主題が現れては消えていく刹那的な印象もある。
    • 前例がないほど思わせぶりな序奏に続く第1主題は大変かっこいい。フルートに現れるト長調の主題は,黒人霊歌"Swing low, sweet chariot"との関連が有名。展開や旋律美では他の交響曲を凌駕するには至ってない気がする。
    • 第2楽章の美しさは言うには及びませんね。中間部で家路の主題・循環主題・第1楽章の主題が一度に鳴り響くのは大胆だ。
    • ドヴォのスケルツォの中ではとりたてて魅力的というほどではないと思う。『ハイアワサの歌』のインディアンの踊りの場面に着想を得たとも言われる。トリオは「北の〜酒場通りには〜」。
    • コーダでは各楽章の回想が満載。結局こういうのが一番やりたかったのだろうか。


ずいぶん偏った書き方になってしまいました。べつに新世界を貶すつもりはありませんので念のため。自分としても初めて交響曲というものを通して聴いた思い出の曲ですし。でも新世界はやっぱり他の交響曲とは並べ難い特異な交響曲だと思います。最後の交響曲,最も有名=その作曲家が達成した頂点!と考えるのはちょっと安易かと。
要するに何が言いたかったかというと,第3番がドヴォルジャークの最高傑作である!ということです。ただ第3番はデザートのように甘ったるい交響曲なので,バランスのとれた体にいいものを求めるなら第5番(思い出深いことや曲の構成をよく知ってることでちょっと上乗せ評価してるかも)。それでは健康的すぎてロマン性に欠ける,というときは第7番。この3曲が自分的ドヴォルジャーク三傑です。次点2・4・6・8は甲乙つけ難い。ズロニツェは新人賞,新世界は特別賞で。

*1:自分は,この説を既に本で読んだことがあったのですが